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健康 それは子供たちへの貴重な贈り物

第8回学術大会レポート

2019年 第8回学術大会ダイジェスト動画

山本篤先生 講演報告

大会初日午前にご講演されました山本 篤先生は、サックス奏者で理学療法士でもあるというとてもユニークな略歴の先生でした。
先生は「すべての音楽表現にとって口腔機能の向上が大変重要」と仰っており、トーマスマイヤー先生の提唱する「アナトミートレイン」の導入を初めての方でも、とても理解しやすいよう講演して頂きました。

『アナトミー・トレイン』とは、姿勢や動作の制御に重要な関わりを持つ、人体を走る筋肉・筋膜経のつながりの「ライン」の事で、筋膜は筋肉を繋げるネットワークとして、全身に7つのラインを構成しています。

音楽家(理学療法士)と歯科と筋肉と筋膜、一見つながりが想像つかないかと思います。
でも実は深く関連があるのです。
楽器と体の接点(主に管楽器)はどこかと考えると、上顎、下顎、歯、口唇です。
良い演奏を行うためには健康な口腔がとても重要で、健康な口腔育成を目的としている顎顔面口腔育成研究会と音楽奏者は非常に密接に関係します。
また上顎、下顎を構成している頭部を動かしているものが筋肉であり、音楽を演奏する際使う筋肉は顔面筋、首筋だけではなく上半身から下半身まですべての筋肉を連動させ演奏します。
そのすべての筋肉をうまく連動させているのが筋膜なのです。

頭からつま先まで全身はつながっており、身体の良いバランス、悪いバランスにより奏でる音も影響を受けます。
そのバランスをまとめている筋膜がうまく機能していないと良い演奏はできません。

この4つの領域を束ねるヒントを山本先生はとても分かりやすく実際のサックスの音色を使いながら、筋膜の重要性を2日目のトーマスマイヤー先生の講義につながるよう講演してくださいました。

我々歯科医師も口腔だけでなく枠組みを広げて全体を診ることがとても重要だと感じられ、当研究会の財産となる貴重な講演となりました。(記:岡村)

溝口優司先生 講演報告

大会初日の午後、国立科学博物館 名誉研究員の溝口優司先生より「頭蓋形態の変位の原因」についてご講演を頂きました。

-人類の短頭化現象(頭部の横幅に対して前後的な長さが短くなっている傾向)について-

原因として骨盤形態・体の大きさ・骨格筋量と関係しており、食べ物や栄養状態、労働量などが時代とともに変化したために生じたのではないか。また、頭蓋の横幅の拡大傾向は、脳の容量や身長とは無関係であり、鼻高(酸素摂取量)増大、大腿骨中央矢状径(骨格筋量)増大、大腿骨頭垂直径(体重)増大、距骨長(体重)増大の傾向と平行関係であり、寒冷地適応の形質と類似した関連性があるとの事でした。

-頭蓋3次元構造と咬耗との関係について-

咀嚼が顎と脳頭蓋の両方に影響を及ぼし、第一大臼歯の咬耗が弱いほど側頭筋近くの顔面部が歪む傾向があり、咬耗が強いほど脳頭蓋では、前上部は平らで広く、後下部は狭くて高い傾向を示し、外後頭隆起部の歪にも関連性があるという事でした。
過去1万年のアジア人集団における頭蓋計測値間の群間相関は、アジア人の集団間の地理的変異と時代的変化には本質的な違いがなく、ヒト頭蓋の変異・変化には、同じような規則性を生じさせる何らかの原理あるいは要因がある。さらに、過去7000年の世界の現代人集団における頭蓋計測値と環境要因の関係は、生物力学的要因と気温、降水量、湿度などの気候要因が、顔かたちの形成要因として働いてきた可能性があるということです。

溝口先生の講演を拝聴し、人類が短頭化傾向にある背景には、咀嚼と頭蓋形態の関連性、気候変動環境などによる頭蓋の変位や変化が生じている事実を改めて知ることが出来ました。現代社会に潜む楽に栄養摂取や移動が行え、空調も整っている生活環境の恐ろしさを痛感する内容でした。(記:嶋﨑)

トーマスマイヤー先生 講演報告

トーマスマイヤー先生(米国)のご講演は、大会2日目、終日に渡り行われました。トーマス先生は「アナトミートレイン」という筋筋膜経線アプローチを発案され、それが世界的に評価されています。それゆえに歯科関係者だけでなく、理学療法士、作業療法士など全身を診る先生方が、世界各国から参加されていました。
私たちの身体の全ての骨・筋肉はコラーゲン組織である強靱な筋筋膜で覆われており、それらが連続的に作用して運動・姿勢機能を有します。この筋筋膜の連続体は、複数の経路としてたどることができ、そこには多数の固有受容器が存在しています。 その固有受容器からのフィードバックが連続的に作用して運動連鎖につながります。それらをトーマス先生は「アナトミートレイン」と名付けました。

そのひとつである「ディープフロントライン(DFL)」は、足底から腰、胸、舌、頭部まで連続する強靱な構造体で、身体の深層空間の中心を占有しています。そして歩行や呼吸等の運動機能は、DFLの身体支持でバランスを保っています。これは私たちの行う顎顔面口腔育成治療がDFLを介在し、全身と相互作用をもたらすものを示唆しています。まさに「口腔から全身の健康」と表現できますね。
また、胸鎖乳突筋が短くなることで、前傾姿勢(猫背)と舌骨が低下するため、頚部の筋筋膜のストレッチ実技講義をして下さいました。張力と圧を時間をかけて加え、連続する筋骨格系のバランスを整えるものでした。
トーマス先生の講義は情熱的でパフォーマンス性があり、口腔と身体の繋がりの理解が深まると共に、大変充実した楽しい時間を過ごすことができました。
さらに通訳の谷佳織さんとのコンビネーションが素晴らしく、まるでトーマス先生がお話されているような通訳で、会場が感動の渦に巻き込まれました。(記:竹末)