まず不正咬合がなぜ起こるのか、不正咬合の大きな原因は何かということを理解しておかなければなりません。叢生(ガタガタの歯並び)、開咬(しっかり噛んでも上下の歯の 間に隙間ができる)、上顎前突、反対咬合など全ての理想的ではない歯並びが生じる大元のきっかけは、上顎を含めた中顔面を構成する骨複合体が回転しながら下方に降りてくる、 つまりダウングロースであると考えています。この部分に目を向け、不正咬合の原因にアタックして問題を解決しようとするのが、バイオブロック(Biobloc)、ランパ(RAMPA) を装置として主に使用する顎顔面口腔育成治療です。
一方、シュワルツアプライアンスとして総称される床拡大装置は、現象として「歯を並べるスペースが少ない」ということがあれば、平行拡大、つまり、立体的な問題を目を向 けずに、スクリューなどを使用して2次元的(平面的)に顎の骨を広げようとトライするものです。
顎顔面口腔育成治療と床矯正治療との違いを理解する上で大切なことは、歯を並べるスペースが少ない=顎の骨が小さいということではないということです。多くは、『回転とひずみによって骨がたわんで小さく見えている』と表現した方が、より正解に近いと思います。(※図1)
たわんだ骨をたわんだまま広げようとしても無理があります。仮に広がっても、それは上部のみで、ほとんどの症例で、時間がたったり、奥歯のかみ合わせがしっかりしてくるにつれて“後戻り"という現象を起こしてしまいます(※図2)。また、歯の挺出(歯が伸びること)を伴い、さらに垂直的な(3次元的な)問題を増大する危険性を伴っているのです。
顎顔面口腔育成治療は、ダウングロースという現象によって正常ではなくなった骨にアタックして、それらを本来あるべき位置、多くは前上方へ再配置させることで、異常を異常のまま放置せず、大元の異常を改善していく(多くは拡大治療を伴います)、その結果歯並びも治っていくという治療です。
まとめると
☆床矯正治療……立体的に見てひずんでしまった顎骨の上部のみを、歯を並べるために平面的に平行拡大していく治療。
☆顎顔面口腔育成治療……顔が長くなるなど立体的な問題を起こしている大元にアタックして解決していき、結果として歯並びも良くなる治療。と表現でき、装置の形は似ているようでも、治療目標や治療結果は全く非なるものなのです。
ここでは、“歯並びを治す"という面にのみ焦点をあてて比較してみましたが、顎顔面口腔育成治療では
「人にとって歯並びよりも大切なことがあります」
という考え方にたっているということは理解しておいてください。